―――高く、 高く大空を舞う、無機質な翼。 鳥よりも自由に大気を駆け巡り、雨をも蹂躙するそれは、 密やかに、 けれど、何よりも激しく心を打った。 無慈悲に猛り狂う炎。 街から随分と離れた山の縁でただじっと、双眸を巡らせ逃げ惑う人々の影を眺めた。 家も、人も、何もかも。 耳を劈くような轟音とともに、全てを破壊し、奪っていく光の嵐。 ドス黒く淀んだ空の下、旋回しているのは見慣れた戦闘機だ。 (あんな、に) 幾度となく舞い戻っては鉄の塊を落とす。 鳥と同じように空を舞うそれは、翼を持たぬ人類の夢であった筈。 (あんなに、汚かったか) くらく、かなしく。 一切の感情も映さぬ、ただの鉄の塊であっただろうか。 悲鳴とも怒声とも判断出来ない人の声を尻目に、ぼんやりと思う。 所詮ひとはひとなのだと。 生まれつきアダムとイブの罪を背負っている人類が生む全てのものは、やはり罪を生むのだ。 「少佐、作戦成功です。全機マザーへ帰還致します」 どこか興奮の滲む部下の声が背中を抉る。 エリックはぎこちなく片手を持ち上げて、それだけを返事とした。 啓吾の元へ行こう。 そして、街の酷い有様を教えよう。 重症を負い米軍の捕虜となった今でも、彼の黒い瞳は頑なにエリックを映さない。 (でも、君は残酷だから、) 肩を震わせ、街を焼いたと、そう言えば。 憎くて仕方無い自分を、罵る事もせずただ抱き締めてくれるのだろう。 一方的な殺戮で奪った大勢の命よりも、決して報われぬ愛を想う。 傷付け、踏み躙る。 熱く燃える身体と、冷え切った心。 まるで、―――の、ようだ。 (啓吾に逢おう) エリックはとても穏やかに、微笑った。 fin. |
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