*Kiss.


酔ったのかもしれない。


障子から透ける夕陽。
開け放したままの硝子戸から流れる、穏やかな夏の空気。
やけに手触りのリアルな畳の上、既に飲み干したジュースのような酒缶が頼りなく置いてある。
そして目の前には、だらしなくYシャツのボタンを外し、すっかり上機嫌になっている級友の姿。


漠然と、キスしたいと思った。


好きとか嫌いとかそんなんじゃなくて。
アルコールに色ついた頬とか、少し眠たそうな蕩けた瞳とか。
太陽のせいで、少し茶色に見える本当は真っ黒の髪とか。


近づいて間近で見たい。
触って体温を確かめたい。


その。


きっと、そんなには柔らかくない唇に。


「なぁ、キスしていい?」
「は?」
「キス、していい?」


繰り返して、間合いを詰める。
戸惑ったように見上げてくる肩に緩く腕を回して。


「……酔ってんのかも。俺」
「…………俺も、割りと」


酔ってるかも。


小さく震えた囁きは、重なる吐息に消えていく。


fin.





kouki

素敵サイト様『足跡が消えても』のステキッスv企画で贈らせていただいたもの。
参考にしたイラストはbackので。
大好き。
もちろん掲載許可頂戴済。

ss……消化不良でも一生懸命。

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