まつひと


土の上にすっと立つ。
心地良い草や、凍えるような雪に埋もれる土地。
蒸し暑い熱風が頬を撫でる度に汗ばんで、夕焼けに空が染まれば故郷へと想いを馳せる。

どうしてそんなところにいるの?

通りすがりの紋白蝶が首を傾げる。
うたた寝から覚めたばかりなんだ。
僕は笑ってそう言った。

じっとしていて、退屈じゃないの?

蜜探しをしていた甲虫の子供が不思議そうに尋ねる。
じっとしているのも中々大変なんだ。
僕はわざと難しい顔を作って、子供には出来ないよと胸を張った。

休んでばかりいないで、ちゃんと働きなさいな。

砂糖を抱えた蟻たちが、口を揃えて叱咤する。
これが僕の仕事なんだ。
僕は少しだけ困って、肩を竦めた。

もう少し向こうへ行けば、とても暖かいだろうに。

私が連れていってあげる。
群れから逸れた燕が一緒に行こうと歌う。
雪がたくさん降って、かまくらを作るから大丈夫。
僕が鼻を啜りながら答えたら、燕は寒空を一度、旋回した。

君は去年もその前も同じことを言った。

哀しそうに、寂しそうに、ぐるぐると頭の上を飛ぶ燕。
随分と長いことそうしていたけれど、大粒の雪に翼が濡れてしまう前に、肩を落とし旅立った。

しんしんと雪が降る。
空をも包み込む真っ白い結晶たち。
辺りは一面雪に埋もれて、鳥や虫の声が聞こえない。
もしかしたら誰も僕を見つけられないのかもしれない。
僕はもうずっとひとを待っているから、それじゃ困ると思って大きなかまくらを作った。
大きな大きなかまくらなら、少しくらい遠くても見つけられるだろう。

―――もう直に溶けてしまうよ

いつの間にか戻ってきていた燕が空から声を掛ける。
僕の周りには不器用な雪溜まり。
気が付けば辺りの半分を緑が占めて、紋白蝶たちが少し遠くでおしゃべりをしていた。

君はどうして、

燕は僕の肩に乗って、さめざめと泣く。
続きを聞くことはきっとないだろうなんてぼんやりと考えながら、もうすぐやってくる甲虫たちを思った。

来年も再来年も、ただじっと、僕は此処でひとを待つ。


fin.

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